新しい「価値」を生み出したい〜アクアポニックス邦高柚樹氏インタビュー

インタビュー1回目は邦高柚樹氏(くにたかゆずき)インタビューをお届けします。
邦高氏は埼玉県在住、2017年からスタートアップ企業で働いており邦高氏は植物水耕栽培と水産養殖を組み合わせた「アクアポニックス」の魅力に惹かれ研究をしています。

今後、秋田県にもアクアポニックスを展開されたいということで、邦高氏の想いと「『これまで』と『これから』」について伺いました。

邦高 アクアポニックスアクアポニックスとは何か

——まず、「アクアポニックス」とは何でしょうか?

邦高:アクアポニックスとは水産養殖と植物工場の2つを組み合わせて、水を中心に循環させながら植物を生産していく水耕栽培法です。
地球にもっとも優しい生産方法とでもいいましょうか。

——魚を利用しての水耕栽培とでもいいましょうか。

邦高:実は、魚を利用していると言うニュアンスが少し異なるのかなと思います。
野菜を育てるために魚が入ると言う形は望んでいません。
魚がいなくなったら全く回らないし、水だけでは野菜は大きくならない。
魚と植物の両輪あって初めて成り立つものでどちらかが欠けても成り立たない。それがコンセプトになっているのがアクアポニックスです。

——魚と植物が両輪で。

邦高:はい。というのも、この循環システム、魚のふんから始まるんですね。
魚のふんが、魚の水槽から繋がれたパイプを通って運ばれていく。
そして微生物がたくさんいる水槽に流れ込みます。
そこで魚のふんを微生物が分解してくれて、アンモニア(魚のふん)→亜硝酸→ 硝酸と分解されていきますね。
硝酸は植物にとっては大好物のもので、その水が隣にある野菜の水槽に流れ込む。
そして植物が養分だけを吸収していくので、結果的に水を濾過することになるんですね。
濾過されたきれいな水が魚の水槽に帰っていくと言う仕組みなのです。
これが何も起こらない限りずっと半永久的に回り続ける循環システムが、アクアポニックスなのです。

——ではここでアクアポニックスのメリットをお聞きしたいんですが、水耕栽培のアクアポニックスでは栄養面はどうでしょうか。土壌で生産するのと変わらないのでしょうか。

邦高:はい、全く変わりません。
葉物野菜やハーブ等は葉っぱが小さいとき、いわばマイクログリーンの状態がいちばん栄養がありまして、その時に収穫すれば栄養価が格段に高い作物になります。
手軽にオーガニック野菜が作れるようになりますよ。

アクアポニックスと従来の農法との違い

——美味しさの問題ないんですね。

邦高:はい、しかも普通の水耕栽培よりも効率よく早く育ちます。
以前に発表された論文で、露地栽培よりも11倍早く育つと言う結果も発表されています。

——日々のメンテナンスはどうでしょうか。

邦高:メンテナンスはそんなに負担かかりません。週に1回自然の水を入れるだけは必要です。なぜなら水が自然に蒸発してしまうからです。

——初期準備はいかがでしょうか

邦高:アクアポニックスを立ち上げるにあたっていちばん大事なところは水作りなんですね。
アクアポニックスは微生物が魚のふんを分解して栄養分にする仕組みをとっているので、微生物が住むことができる水環境を作ることが必要となります。
これが約2〜3週間ほどかかります。

アクアポニックスの特徴

海外でアクアポニックスと運命の出会い

——この仕組みはどちらでご存知になったのですか?

オランダ写真01

邦高:アクアポニックスとの出会いは大学の時です。
当時、オランダに交換留学したときに偶然出会いました。
留学先のオランダにて銀行でインターンをしていた時に、通勤途中の街で大きなビルがあって。
その屋上にビニールハウスがたくさん並んでいたのをみて、あれは何やろなぁとずっと不思議に思ってました。
で、休みの日に実際に行ってみたら、1面アクアポニックスの水槽が広がっていたんです。
そのビルは8階建てで、7階で魚を育てて8階の屋上で野菜を育てていた。
その大規模さに言葉にならないくらい魅せられてしまった。

——アクアポニックスは世界に広がってきてるんですか。

邦高:アクアポニックスは世界各国に広がっております。最も普及が進んでいるのはアメリカとオーストラリア。
ヨーロッパではイギリスとオランダが強いですね。
アクアポニックスが使われていたのは、もともとは国連の主導により、内陸の水資源が乏しい国でありました。国連がDIYして作っていたんですよ。
アクアポニックス自体がものすごいシステムと言うわけではなく、仕組み自体は1,000年前から南米で受け継がれていたもの。
水田農耕といって、湿田に木を筏の様に組んでいく方法から編み出されたものです。

——水田農耕が原型に!

邦高:はい、昔から川の近くに文明が発達していたじゃないですか。
川は山や土壌から養分をたっぷり運んできます。
そこから野菜や植物を育ててきたことが起源だと言われています。
現地では「チナンパ」と言われているようですが、それがアクアポニクスの原型に近いですね。
で、最近、その仕組みを民間の会社が目をつけ始めたのです。

——どうしてアメリカやオーストラリアで発展していったのでしょうか

邦高:アメリカやオーストラリアでは内陸が砂漠であることが多く、水資源が乏しいところも多くあります。
また、砂漠化の拡大など地球温暖化の影響がより顕著に反映されてしまっているのではないでしょうか。

——日本ではこのアクアポニックスって珍しいですよね。

邦高:日本は海外に比べてまだ四季がはっきりとあるので、自然に恵まれた生活がある日本人とっては地球の環境変化が見えにくいのではないでしょうか。

——ではなぜ、日本でアクアポニックスを普及させようとしているのでしょうか?

邦高:僕は今の環境は絶対に永久に続かないと思っている節があるんです。
というのも、僕は神戸の生まれで、2歳の頃に阪神・淡路大震災を経験しました。物心ついたときにはすでに仮設住宅にいたのです。
その時の経験を踏まえ、東日本大震災が発生したときに、僕は不謹慎ながら今ある環境が、未来永劫続く事は無いと思ったんです。

——それはそれまでに積み上げられた文化や生活も含めてすべてと言うことですよね

邦高:そうですね。
日本は豊富な農作物があって、非常に恵まれている国だなと。
ただオランダにいた時、様々な国の人たちと出会いまして。飢餓に苦しんでいる国から留学されている方もいれば、水はこんなにも高いんだと主張する国から来られた方もいる。
僕は、日本もいつこうなるかわからないとも思えたんです。
それが何かはまだわかりませんが。
ただ、いつまでも今までのような平和な、安全な環境に永久に確保できるとも限らないと思うんですね。

 

なぜアクアポニックスに興味持ったのか

——でもそもそもなぜ、アクアポニックスにフォーカスされたのでしょうか

邦高:なぜアクアポニックスかというと、安定的な食料を供給できると言うのが大きな魅力なのですね。
アクアポニックスがあれば、魚から動物性タンパクが摂取できますし、野菜も摂取できてビタミンも摂取できる。
これってこんなに素晴らしいものってないよねって思ったんです。
もし大震災のようなネガティブインパクトが再び日本に起こったときに、アクアポニックスは日本の救世主になるのではないかと確信したんです。

——なにかと噂されていますからね。「東海地震」「東京直下地震」が起こる!とか。

邦高:将来本当に何が起こるかわからないので、何か起こったときのために良い食事が取れること。これがいちばん大事なことではないかと。衣食住と言う言葉がありますが非常時の際、食に関してはアクアポニックスがあればと思っています。

——食料問題において誰かを救いたいもしくは困難に出会った事はありますでしょうか

邦高:2017年の1月または2月に当時住んでいた鹿児島で桜島が噴火しました。
その時の火山灰で野菜がダメになってしまったんです。
そのニュースを見て僕は、「こういうときにアクアポニックスがあれば、補填できるのに…」と思ったんですね。

——確かに農家にとって災害は死活問題ですよね。

邦高:そうですね。鹿児島の例は規模の小さい事例かもしれませんが、これが同時多発に発生したり、何回も積み重なることで日本にとって大きな打撃になってしまいかねません。
火山の噴火だけではなく、地震や水害などでも大打撃になるかもしれません。
だからこそ誰もがみんながいつでもどこでも農作物を作れる環境を整えていきたいなと僕は思っています。

——農作物を作ると言う観点は一般人にはなかなかない発想かもしれませんね。
農作物は農家がつくると。一般人が農作物を作るとどうしても家庭菜園のイメージがありまして…

邦高:そうですよね、プロが農家で、一般人はすべて家庭菜園という名のアマチュアと言う。
そうじゃなくて、アクアポニックスの価値の出し方はいろいろあると思うんですが、アクアポニックスの概念やコンセプトを理解してもらえれば、どのようにすれば植物は育つのかということがわかってくるんですよね。
魚のふんは堆肥になりますし。この仕組みさえあれば誰にでもできちゃうんです。
だから一般人の農業への参入障壁がぐっと下がるんではないかと思います。
その結果が就農人口を増やす可能性だってあると思うんです。

——可能性が高まりますよね!

邦高:あとは、例えば、露地栽培の農業は本業として持っているけど、本業とは別に副業としてアクアポニックスにも着手する。そんな未来像もあるんです。

——同時に二毛作ができるイメージですね。

邦高:そうですね。中でもハーブ系の作物、葉物の野菜とかですね。例えばルッコラとか、リーフレタスとか。リーフレタスは回転率が早いので、最大で年間11毛作はできるんじゃないでしょうか。

——なんと、11毛作も!

秋田の魅力に触れる

アクアポニックス 02

——今回は秋田県での事業がテーマになりますが、秋田は気候の特性上寒くなるのですが、寒冷地での栽培の事例はありますでしょうか。

邦高:まだ寒冷地での栽培は本格化されてない状態で、これからというところです。やや気温の低いイギリスでは水温を上げる努力をしているので、秋田県のように寒冷な地域でアクアポニックスを実践するには水温を上げると言う方法が良いかもしれません。

 

——なるほど、アクアポニックスアクアポニクスがあれば豪雪地帯の秋田県でも冬に農作物が栽培できるということができるんですね。

邦高:そうですね。

——日本での導入事例はいかがでしょうか

邦高:今は、公共スペースなどにアクアポニックスを置いてもらう活動が中心で、農業・水産関係者様とはこれからですね。

邦高1

 

——邦高さんは秋田の好きなところはありますか

邦高:やっぱり定番ですが、きりたんぽでしょうかね。素晴らしくおいしいです!

——アクアポニックスを秋田で事業展開されるなら何を栽培したいですか?

邦高:やっぱりその地域の特産物になる作物を作りたいですよね。
例えば秋田のとんぶりやじゅんさいなどが栽培できたら、今度はそれを東京など他の地域にもっていくことができるようになるんですね。
地元の特産物が新鮮な状態で東京で食べられるって言うこともできるんです。あとは、川魚もですね。
例えば、このとんぶり、クニマスが作ったのですよ、と言えるような、地元の魚と地元の農作物が循環して作られる仕組みが東京や他の地域でも再現できる。
そういった中で、秋田を身近に感じることができることでの新しい価値を生み出したいですね。

 

編集部あとがき

邦高氏は最後にこのようにお話してくれました。

アクアポニックスとは、「地球を作り出すことだ」と。

今ある環境は永遠じゃないことを肌身で感じてきた人生を送った氏は、その経験から食料と真摯に向き合い、来るべき有事の際に備えています。
たしかに、食料を生産できるのは地球だけ。だからこそ、ミニ地球を再現しているというのは納得ですね。

アクアポニックスは現在の農業を続けながらも、水耕栽培としておよそ1畳〜2畳分くらいのスペースさえあれば、簡単に始めることができます。
土づくりなど栽培コストもかけず、虫にも強いことが特徴です。
さらに、室内での栽培も可能なことから雪に覆われる秋田の冬でも栽培が可能です。

アクアポニックスを開発、展開中の邦高柚樹氏に
詳しいことを問い合わせたい、またはコラボレーションされたいという企業様、公共団体様を募集しております。
詳しくは下記よりお問い合わせください。

お問い合わせ アクアポニックスTOKYO http://aquaponics.tokyo/

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