地域おこし革命の噺家、桂三若師匠があきたさいこうに登壇

 あきたさいこうの代表、高橋です。僕が初めて、桂三若さんの落語を聞いたのは、今年2017年5月、銀座なまはげダイニングで企画されていた寄席でした。今となっては失礼ですが、落語を聞くのが初めての僕は、正直聞いたことのない噺家さんの落語にあまり期待せずに行ったのが本音でした。

 しかし、見事に期待は裏切られ、三若さんの落語を聞いて、徐々に引き込まれる自分がいました。こんなにライブの落語は面白いのかぁ。これが僕が始めて寄席を聞いた後の最初の感想です。その後、懇親会で御一緒させて頂き、三若さんの著書を頂きました。「いろはに秋田」三若さんが、住みます芸人として秋田に住んでいた時の出来事を、面白おかしく書かれています。しかも秋田県全25市町村の特色を上手くとらえ表現されていたこと。この方は、今日本で一番秋田の現状に詳しい人なんじゃないかと本気で思いました。そんな縁で、「三若師匠一度、インタビュー受けてくださいよ」とお願いしたところ。「ええよぉ」と二つ返事で気軽に応じてくださいまして今回のインタビューが実現しました。

快くインタビューを受けてくださった桂三若師匠

 お笑いは秋田県を救うのか

高橋:三若師匠(以下三若)、本日はありがとうございます。いきなり、突拍子もない質問なんですが、お笑いは秋田県を救いますか?

三若:それは、もちろん救うよ。ユーモアって一番大事ですからね。雪が多いとか、交通の便が悪いとか全部笑いに変えればいいんですよ。先日別府に行ったんですけど、遊園地を温泉にしようという面白いプロジェクトがあって、全国放送のテレビに取り上げられたり。地域の特色を出していけばいいですよね。

 面白いと思うことにお金をかけていく必要があると思うんです。どうしても、除雪費とか必要なものには支払わなければならないですけど、もっと面白いことに投資していけたら秋田県外の人にも注目されるかもしれないですし、楽しくなりますよね。県外、ましてや海外に発信していくにはユーモアは必須だと思っています。

高橋:まさに、その通りですね。秋田でこんなことしたら面白いかもとかアイデアはありますか?

三若:うーん。そこが難しいんですよね。もちろん、交通の便とか言っても僕らは何もできないですし。新幹線専用の線路があって東京から3時間位で秋田市に到着したら変わるかもしれませんね。よくネタにもするんですけど、冬場になったら、新幹線が軽トラに抜かれるとかびっくりしますよね。どんなに遅いねんって(笑)。雪のため、新幹線が遅れておりますって毎年降るやろお前。ってツッコミしてますよ。

 温泉、食べ物、海も山も揃ってるのに、どうしても知名度が浸透しないという感覚がありますよね。秋田は知ってるけど、行ったことがない人が多いですよね。ありきたりかもしれませんが、一人一人が観光大使となって、秋田の宣伝して欲しいなと思いますね。

なぜ住みます芸人になったのか、しかも秋田なのか。

高橋:そうですね。僕も観光大使になります。三若師匠が秋田へ住むきっかけとなった住みます芸人となったのはご自身で応募されたのですか?

三若:そうですね。吉本の事務所から、全芸人にメールで住みます芸人募集の情報が一斉送信されたんです。僕は、そういうの大好きなんで、行きたいとすぐ返答しましたね。行きたい場所3か所ぐらい挙げてくださいとアンケートがあって、秋田を選びましたね。東北地方に一回住んでみたいなとずっと思ってたんです。大阪に住んでて、仕事では何度も行く機会はありますけど、住むのと違うじゃないですか。一体住むってどんなんなんだろうなと思ってました。

 おそらくこんなチャンスがなかったら一生住む機会ないと思って即決しましたね。秋田を希望したのは、以前バイクで日本1周した時に秋田に寄ったことがあって、その時の、人の温かさが忘れられなかったんですね。その時に角館の桜は見たほうがいいとか、大曲の花火は日本一だとか、竿燈まつりは綺麗だぞとか、横手のかまくらと言うのはねぇとか色々教えてもらって、とても興味が湧いたんですよね。

 秋田の人って、恥ずかしがりで、初対面の場合自分から話しかけることって少ないと思うんですが、一旦仲良くなると意外とおしゃべりな人が多いですよね。そして何よりも、秋田のこと大好きなんだなぁという気持ちが強いなと感じますね。

高橋:日本全国回った上で、秋田を選んで頂いたというところに感謝ですね。

三若:やはり、秋田の人は、おもてなしの心が強い気がしますね。タクシーの運転手さんが愛想ないとかよく言うじゃないですか。これもよくネタにしますけど、「どこか近くで美味しいお店ありますか?」とか聞くと、「ね」って一字かよ(笑)って。

 でも一度懐に入ると、本当にみんな温かいですよね。秋田で知られるようになってからは、皆さん気さくに声をかけてくれるようになりました。つい先日も、角館で温泉入っていたら、裸のおっさんが声をかけてくれまして、「三若さん、いつも見てるよ」って素っ裸で、気さく過ぎるわ(笑)。こう言う人間性が、最高の魅力ですよね。これは変わって欲しくない所ですね。だからこそ、こういう良さを発信できるアイデアマンが生まれることを期待しますね。

なまはげと一緒に

現在の秋田に必要なもの。

高橋:今の秋田に足りないものや、逆にここは満足しているというところってどう思われますか?

三若:人口減少とか言われてますけど、僕は提案したんですよ。人口100万人切ったらパーティーせぇと。ただでさえ、持ち家率ナンバー1で広い家が余ってるのに、それを99万人で支えるぞ!オー!みたいなパーティーしたら楽しくないですか?(笑)。ネガティブなニュースをポジティブに変えるみたいなことが必要だと思うんですよ。人口減少率ナンバー1とか暗いニュースしか聞かないので、それを逆手に取ったらいいんですよ。そしたら全国ニュースになるかもしれないですし。そしたら県外からもポジティブに見られますよね。人口減ってるのに、なんか楽しそうだなぁ。みたいに思われたらいいかなぁ。全国に散らばっている秋田の人たちに、遊びに来てくれよー。99万人でもてなすぞー!そういう、面白い動きが、僕が3年住んでて足りないところですかね。

 特に、東京に住んでからは秋田の明るいニュース聞いた記憶がないですもんね。ニュースになることの宣伝効果を考えて、お金かけてでもやろうという動きがあったら面白いと思うんですけどね。

 足りてる部分は、そりゃもうハード面は、すべて揃ってますよ。夏も冬も、楽しめます。僕は、海の番組とスキーの番組やってましたもん。雪は綺麗やし、冬の祭りも沢山あるし、山も綺麗で、食べ物も酒も美味しいし夏の海は綺麗やし、ダイビングやマリンスポーツも釣りもできるし、温泉もあるしハード面では、無いものは無いと言いきれるぐらいですよね。僕が、行った時は、セブンイレブンはまだ無かったけど、今はできましたし(笑)。セブンイレブンができて、もう完璧ですわ(笑)。できた初日は、行列ができてニュースなってましたからね。

噺家は地域社会に何をすべきか。

高橋:落語家の仕事って、人の生活をより豊かにすることだと思うんですが、あえて秋田という地方を選んだというのは、何を提供したいという思いからだったんですか?

三若:娯楽って、衣食住の一番後に来るもんじゃないですか。それでも、落語会が秋田市にしか来ないとか、そもそも秋田県に来ないから仙台まで聞きに行かなあかんとかそれが現実だと思うんです。だからこそ、僕が秋田に住んで、近所までしか歩かれへん、じっちゃん・ばっちゃんの歩けるところまで自分たちが行って、落語を見てて欲しいと思ったんです。だから、僕らが足を運ばないといけないと思ったんです。

 別に、僕の落語を見てくれと思うよりは、落語ってこんなに面白いんだというのを知って欲しいというのも強いかもしれませんね。そこから、ラジオで聞いてくれたり、趣味の一つみたいになったら嬉しいですね。ユーモアも学べるし、落語が生きがいになったみたいなじっちゃん・ばっちゃんが一人でも増えたら嬉しいです。

 映画を見るとか、小説を読むのと同じレベルで落語を聞くのが趣味の一つになったとか話を聞くと、やっててよかったと思いますね。会社に所属しているので、費用の問題も多少はありますが、生で落語を見るのが一番いいと思ってるので、なるべく僕は足を運びますね。お金の問題で、落語が見れないというのは無くしたいとはいつも考えています。

ここが大変、秋田県。

高橋:かっこいい考え方ですね。秋田で活動してて一番大変だったことは何ですか?

三若:それは、雪が降る冬の移動です。なるべく時間さえ合えば行くようにしてたんです。12時に湯沢市で講演が終わって、14時から秋田市で開始とか、夏なら問題無く行けるはずなんですが、真冬に吹雪がちょうどあって、車から何も見えなくなってしまったことがありました。マネージャーと二人で高速道路に入ったら通行止めになって、何とか大曲駅まで行って、新幹線に飛び乗ろうとしたら、「今止まりました」って、じっちゃんの脈かって(笑)そんなことがありましたね。

なまはげにびっくり

 高速止まって、新幹線も止まるとか、想定できませんからね。でも、その厳しさを秋田の人たちは知っているから、心が寛大ですよね。優しさはすばらいいなぁと思いますね。秋田のみならず、全国で高齢化は進んでるので、落語を通して特殊詐欺を防ごうという活動もしてるんですよ。秋田の人は、人がいいから、話聞いてしまうんですよね。特殊詐欺は撲滅したいですね。

あきたの子供たちへ。

高橋:高齢者の方の近くまでご自身が会いに行くというのはとても素晴らしいですね。一方秋田の子供たちはどうですか?

三若:子供は宝ですからね、いろんな学校行きましたけど、僕が一番子供たちに伝えたいのは、いろんな仕事があるということを知って欲しいですね。「どうやったら、落語家なれますか?」とか子供に聞かれることもあったんですが、落語家という仕事もあるし、選択肢は無限なんだということを知って欲しいです。

 落語は、想像力の教科書なんて言われますから、頭の中でイメージすることの大切さを知って欲しい。自分が将来プロ野球選手になりたい場合、まずは、自分がプロ野球選手になって活躍しているところから想像する。こう言う事をを知って欲しいです。

 秋田の場合、ブラウブリッツやノーザンハピネッツの選手の皆さんは、責任は重いと思いますよね。僕は神戸出身ですけど、サッカー少年は将来はヴィッセル神戸で活躍したいとみんな言いますからね。秋田のサッカー少年が将来ブラウブリッツに入りたいと言われるような憧れのチームになって欲しいですね。スポーツのみならず、秋田県内で活躍して子供たちに憧れられる存在が増えたらいいですね。

秋田のここが好きそして未来へ・・・

高橋:そんな未来が理想ですね。秋田の好きな食べ物はありますか?

三若:ハタハタうまいですよね。ぶりっ子初めて食べた時は衝撃でしたね。何これって(笑)。

きりたんぽも美味しいですよね。秋田に行って初めて食べましたからね。秋田のカフェでご飯食べた時に、味付け濃いなと最初は感じましたね。全体的に味が濃いのは、お酒に合うようになってるんだと後から気付きました。

 僕は、仕事でもプライベートでも秋田の25市町村全て行ってるんです。秋田の人に聞くとそれは珍しいみたいですよね。秋田市出身の子とは話しても知らないこと多いですもんね。秋田タウン情報に温泉の記事書いてたので、40箇所ぐらいの温泉入ってますしね。西馬音内の盆踊りや横手かまくら祭り、刈和野の大綱引きはプライベートで行きました。

高橋:いろはに秋田を読ませていただきましたが、一番今の秋田に詳しい人が三若師匠なんじゃないかと勝手に思ってるんですが、一番好きな場所教えてください。

三若:以前のインタビューでも聞かれたことあるんですが、僕が正直一番好きなのは、象潟とか岩城とかですかね。海が好きなので、水平線に沈む夕日を温泉から見るのはたまらなく好きですね。象潟のねむの丘と道の駅岩城の温泉二つここは外せないですね。後輩が遊びに来た時は、連れて行きますね。

 僕ら、日本海側で育ってないので、総合的に見ると男鹿半島もいいですよね。食べ物も美味しい、観光地も多いですもんね。今年の大曲の花火に12人友達遊びに来た時は、せっかくなので、花火前日の金曜日から男鹿半島観光して、温泉泊まって、土曜日に花火見て、秋田市に移動して、川反で12時までお酒飲んで、日曜日は田沢湖観光しました。県北から県南まで好きなところ多いですが、僕は海が好きですね。セリオンも好きです。僕らの周りでは、スカイツリーは、東京のセリオンタワーと呼んでます。

高橋:東京のセリオンタワーこれから使わせていただきます。最後に三若師匠の今後の目標や夢を教えてください。

三若:秋田の皆さんには必ず恩返しですね。落語を通じて秋田を宣伝できるようにしたいです。そんな発信力のある人間になりたいかなぁ。そして、秋田に寄席小屋を作るのが夢ですね。秋田に住んでた時には、20人ぐらいの小さい部屋を借りてやって寄席してましたが、100人ぐらい入れる寄席小屋を作って、常にお笑いやってる場所を作りたいですね。だから、東京でもっと技術磨いて、名前売って、協力者募って是非実現します。そこに、全国の仲間や後輩を呼びたいですね。仕事で、全国各地行きますが、県庁所在地の駅前がこれほど寂しいのは少ないですから秋田駅前から笑いで活性化できたらいいですね。

最後に

まさに、秋田を笑いで活性化しようと本気で思っている、桂三若さん秋田県民以上に、秋田のことを大事に思い活動されているのが伝わりました。秋田駅前の寄席小屋が毎日満員御礼になる未来を作ることができたら本当に最高ですね。これからも応援しています。

かつら・さんじゃく
1970年神戸市生まれ。1994年神戸学院大学、落語学院を首席で卒業後、桂三枝に弟子入り。2007年「桂三若全国落語武者修行ツアー」と称し、47都道府県で471回の落語会を開催。2008年、旅をまとめた『ニッポン落語むちゃ修業』刊行。2011年から吉本興業の地域活性化プロジェクトの「住みます芸人」として2014年まで秋田県在住。2012年、第1回「日本元気大賞」グランプリを受賞。秋田県より委嘱を受け「秋田お笑い大使」としても活動している。東京に住んでいる今も、秋田を盛り上げるために精力的に活動中。オフィシャルサイト http://sanjaku.net/

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